金融庁、外貨建て保険の顧客保護で〝見える化〟加速

金融庁の入る中央合同庁舎=東京都千代田区
金融庁の入る中央合同庁舎=東京都千代田区

金融庁は生命保険が顧客資産を外貨で運用する「外貨建て保険」の実態について〝見える化〟を進める。利用者が不利益を被らないよう、各社の運用実績や返戻金の状況などを比較できる新たな共通指標を今春導入。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに伴い利回り改善で米ドル建て商品などの販売が活発になれば、減少傾向のトラブルが増加に転じる恐れもあり、対策の実効性が問われる。

金融庁が4月以降に導入するのは「重要業績評価指標(KPI)」と呼ばれる仕組み。外貨建て保険の個別商品について運用実績を比較し、運用益や損失が出た顧客の割合などをグラフで示す。年1回公表し、最大で過去3年分を販売時に顧客が見られるようにする。

外貨建て保険は顧客が受け取る利回りが海外金利に連動し、販売額も左右される。過去にも米国が政策金利を引き上げていた平成30年度は約4兆円あったが、新型コロナウイルス禍での米国の利下げや対面販売の難航を背景に、令和2年度は約2兆円まで減少した。

ただ、世界的なインフレを受け、FRBは3月、欧州中央銀行(ECB)は年内にも利上げを始めるとみられ、コロナ禍からの経済再開も重なって今後は販売額が増加するとみられる。

一方で、外貨建て保険は急速な販売増加に伴って利用者からの苦情も多い。生命保険協会には、担当者が「元本保証」と言ったのに解約返戻金を確認したら元本を下回ったといった声が多数寄せられ、件数は元年度に過去最多の2822件を記録した。2年度は減少したものの、金融庁幹部は「他の金融商品に比べればまだ高水準」と警戒する。

苦情が多いのは、販売担当者の説明が不十分だったり、為替変動次第で元本割れするリスクなどを特に高齢の顧客がよく理解しないまま加入してしまったりすることが原因とみられる。

このため、生保協会も販売担当者の資質向上に向けて「外貨建保険販売資格試験」を新設し、今年4月以降は試験合格者以外は外貨建て保険を販売できなくした。さらに中途解約時に0・3%程度上乗せされている「タイムラグマージン」といわれる手数料も、金融庁の指摘を受け引き下げや廃止に向けた動きが進む。

ただ、KPIによる見える化や、業界の自主規制でもトラブルを防げなかった場合、金融庁がさらなる規制強化に踏み切る可能性も指摘されている。(永田岳彦)

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