ECBが緩和の継続決定 ラガルド総裁「縮小は時期尚早」
【ベルリン=石川潤】欧州中央銀行(ECB)は22日開いた理事会で、異例の金融緩和政策の継続を決めた。世界経済の回復は進んでいるが、新型コロナウイルスの感染拡大などの「不確実性が先行きの見通しに影を落としている」(ラガルド総裁)ためだ。ただ、物価が年内に2%程度まで上昇するとの見方が広がるなか、緩和縮小を求める声も上がり始めている。
ECBは新型コロナ対策として資産購入の特別枠を1兆8500億ユーロ(約240兆円)にまで拡大している。今回の理事会では、前回3月に決めた通り、かなり速いテンポで買い入れを進めていくことを確認した。主要政策金利は0%、銀行が中央銀行に余剰資金を預ける際の金利(中銀預金金利)はマイナス0.5%に据え置いた。
ECBは次回6月の理事会で新しい経済・物価見通しをまとめ、資産買い入れのペースなどを議論する。ECBは経済・物価の回復に伴い、買い入れペースを徐々に落としていくとの見方もあるが、ラガルド総裁は会見で「(段階的な縮小について)議論していない。時期尚早だ」と語った。
欧州経済は新型コロナの感染の再拡大で、独仏などは厳しい行動制限を強いられている。出口の見えないロックダウン(都市封鎖)で、1~3月のユーロ圏の経済成長率は2期連続のマイナスとなった可能性が高い。ラガルド総裁は先行きの回復に自信を示しつつも「あらゆる手段を用いる準備はできている」と改めて強調した。
物価に目を向けると、消費者物価上昇率はエネルギー価格の上昇などで前年比1%を超え、ドイツの付加価値減税終了の影響が強まる年後半には2%に達するとみられる。最大の経済大国であるドイツでは、年末の物価上昇率が3%を超える見込みだ。
ECBは今のところ緩和を粘り強く続けるという姿勢を維持している。欧州ではロックダウンなどで需要が不足し、賃上げの動きも広がりを欠く。エネルギー価格上昇などの影響が消える2022年以降は、物価上昇率が再び1%台前半まで低下するとみているためだ。
ただ、物価上昇がECBの見立て通り、一時的なものに終わるかは見通しにくい。英米と比べて低いといわれてきた欧州のワクチン接種率も約2割にまで高まってきた。ワクチン普及で感染が下火になれば、米中の高成長の恩恵を受ける製造業だけでなく、雇用などへの影響が大きいサービス業にも回復が一気に広がる。
経済・物価の回復が順調に進めば、異例の緩和を続ける理由は薄れる。金融緩和に消極的なタカ派として知られるオランダ中銀のクノット総裁は4月に入り「特別枠での買い取りは7~9月から徐々に縮小し、予定通り22年3月に終了できる」との考えを示している。
ECBは景気回復が本格化する前に金利だけが上昇し、景気が腰折れする事態を恐れている。だが、景気回復が進んでも金利を低く抑えつけようとすれば、資産バブルや財政規律の緩みにつながりかねない。同じタカ派のワイトマン独連銀総裁も「緊急措置が常態化してはならない」と述べている。
独オランダなど経済が比較的良好な欧州北部が緩和政策の早めの手じまいを求め、イタリアなどの南部が継続を唱えるというのが、これまで繰り返されてきた対立の構図だ。危機が覆い隠してきたECB内の溝が再び表面化する恐れもある。