miletさんのラジオ キューブリック服について熱く語る

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「は、相馬をほろぼさず、その姫を伊達の若君に嫁がせるのでござるか?」
 木下藤吉郎は、さすがに困惑を隠せず、怪訝な顔で俺たちの顔を見つめる。
「うむ、相馬の領土は奪っても一族は生かして足利家の傘下におく。そなたは足利、織田、今川の名代になって相馬を差配して欲しい」
 将軍足利義昭が重々しい口調で言う。
「明智光秀は藤吉郎殿の補佐をして頂く」
「奥州幕府を開く所存ですか」
明智光秀が首を傾げて言った。
 義昭が、白々しい口調で
「まあ、そう考えてもらっていいだろう」と答える。
「ただ砂金を海上で採集する装置"ゲンパツ"の禁止の石碑を、奥州幕府が支配する海辺に必ず建設する事とする」
俺は背筋を伸ばして、戦国の二大英雄に最も重要な事を言い渡した。
「本当にゲンパツという海から砂金を取るカラクリが、この世に存在するのですか?」
木下藤吉郎が、半信半疑で聞いてくる。
「あるのじゃ、猿。唐ではその装置を作って、大量の木を伐採して森を失っておるらしい」
美容師信長が打ち合わせ通り、木下藤吉郎に説明する。
「しかし、本当に砂金が取れるなら、試しに一つ作ってもよいのではありませぬか」
木下藤吉郎の意見は、客観的に言って正しい。もし、ゲンパツが本当に海上砂金収集装置として存在したらだが。
「ならんならん、ゲンパツは危険なのじゃ。森を駄目にするし、津波で壊れたら海を汚す」
 美容師信長が、"ならん"を連呼すると、さすがの木下藤吉郎も黙りこんでしまった。
「相馬攻略には、北条の支援が必要である。両名は御苦労であるが、先ず小田原に行ってもらいらい」
「兵の海上輸送を依頼する為ですな。北条にとって敵である佐竹陣営攻略として、依頼するなら否とは申しますまい」
 光秀が淡々と見解を披露する。
「奥《よめ》からの依頼の手紙もここにある」
 俺は瑠璃の書いた義父北条氏康への手紙を藤吉郎に渡した。
「ほう良き薫りがする」
手紙に鼻をちかづけて、好色そうに微笑む木下藤吉郎。駿河太守の妻であり、関東管領《ホウジョウウジヤス》の娘である瑠璃の手紙でふざけるとは、なかなかヤバイ奴だ。
「猿、無礼であるぞ」
信長がすかさず一喝する。何か間違った大河ドラマ見てるみたいで、ふわふわした気分になる。


「今川軍大勝利おめでとうございます」
領国の駿河に凱旋すると瑠璃が笑顔で国境まで出迎えてくれた。転生後の瑠璃は美人さんだが、無邪気な笑顔が兎に角いいのだ。久しぶりに彼女を見てそう思った。
「まあ、信長、生かしてるけどね」
「そのほうがいいよ、歴史変わりすぎだよ」。
今川の女たちは桶狭間の戦いでそれこそ天地がひっくり返るような悲しみを味わった。今回は勝ち戦で大切な夫や息子を失わずに済んだ。戦は勝ち戦に限る。

「じゃあ、今川家も守れたことだし、一緒に風呂でも入るか」
俺は屋敷に戻ると勝利の余勢を借りて、元教え子に変態さん提案をしてしまった。
「いかんすわ、元教師が」瑠璃が鼻に上品に小じわを寄せた。でも、全面拒否でもないみたいで、声は潤っていて丸かった。
「俺は今川家を守ったんだぜええ、偉いんだぜええ」
俺は瑠璃に近づいて、強引にキスした。
「ちょっと先生、強引過ぎない」
美貌の瑠璃が、ドギマギするのを見て俺は確信した。俺が瑠璃を抱くのをビビってたのはただ単に今川家を守る自信がなかっただけだったってことを。瑠璃の美貌が原因じゃなかったんだ。

「まあまあ、奥様、もう俺たちは枕高くして眠れるぞ」
 元の世界線の今川家は倒産した超大企業と同じで見事なくらい落ちぶれていく。氏真の奥さんは駿河を武田に奪われたとき自分で走って逃げたって惨めな伝承もある。
 氏真には国主としての器量がなかったと言うのは結果論で、酷すぎるかもしれないが、まあ負け組ではある(といっても武田北条今川の三国同盟の当事者全員最後は没落しているけど)。ちなみに、楽市楽座を先にやったのは氏真だって説もあるくらいで単なる蹴鞠馬鹿ではなかったと信じたい。


「とりあえず布団入ろうぜ」
「昼間っから、生活指導の先生に殺されるよ」
 瑠璃は冗談めかして言って、小首をかしげた。緊張した黒曜石のような黒目が震えていて、ヒッタすら愛らしい。
「夫婦だから問題ないって」
衝立の向こうの布団の場所に俺は瑠璃を強引に手をひいていった。