【凄いベーシスト解説】サカナクション草刈愛美【リズムの女王】

2022/06/24 に公開
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皆さんこんにちは。
ベーシストのブンです。
普段は岡山の【秘密基地】で
初心者の方向けに音楽レッスンをしています。

今回は、サカナクションの草刈愛美さんです。

まずサカナクションといえば、いわゆる
ダンスミュージックとロックを融合させた
そのパイオニアのような存在ですけど、
個人的には、草刈さんこそが
その中心的存在だと思っています。

というのも、ダンスミュージックとロックという、この2つの違うリズムを円滑に接続するために、
草刈さんが非常に重要な役割を担っているからです。



そもそもダンスミュージックとロックは
取り扱われるリズムの基準が大きく違います。

まずダンスミュージックは
16ビートといって、
1小節の中に音符が16個存在する
いわば複雑なリズムになります。
その一方で、ロックは8ビートといって
1小節に音符が8個の
いわばシンプルなリズムになります。

その上で草刈さんは、
このビートの使い分けが秀逸で、例えば
Aメロで複雑なリズムをやっておいて
サビでは8ビートのシンプルなリズムになる

それによって、いざサビに突入した際、
そのわかりやすくなったリズムによって
楽曲に推進力と解放感が加わって
サビそのもののインパクトも大きくなる
そんなアプローチもされるんです。

「動画」
  


この
リズムを変えるベースラインのポイントは
大きく2つあると思います。
それが、
「Aメロとサビで、いかに違いを作れるか」
そしてその上で、
「表情の違う2つを、円滑に接続できるか」
この2つになると思うんですけど、
そこで出てくる具体的なキーワードが
「3-3-2のリズム」
「拍またぎ」そして
「リズムの中和」です。



まず3-3-2のリズムというのは、
均等に並んだ8つの音符を、
アクセントごとに、それぞれ
3-3-2の長さで区分けする
そういうリズムのことなんですけど、
例えばアレキサンドロスのワタリドリとか
SMAPの「世界に一つだけの花」なんかは
この3-3-2のリズムが基軸になっています

「動画」



そんな3-3-2なんですけど、
草刈さんは、このリズムの名手だと思います。

どういうことかというと、
通常リズムというのは
同じパターンをループさせる事で
テンポキープもグルーヴも
やりやすくなる側面があります。 

その中で草刈さんは、
この3-3-2のリズムを、ループではなく
ピンポイントで出してきます。
その発想と、それを実行できるだけの
安定したリズムの体幹に凄さを感じるわけです。

「動画」



続いて「拍またぎ」なんですけど、
これシンコペーションといって、
その特徴を1つ簡単にいうと、
本来なら次の1拍で出す音を
その前の拍から鳴らす
そういうリズムの事なんですけど、
草刈さんは
このシンコペーションを効果的に使う事で
フレーズに対して推進力や浮遊感を出していて、
その使い方が極めて絶妙だと思うわけです。

「動画」



そんなシンコペーションと、
先ほどの3-3-2のリズム
この2つを織り交ぜた最高到達地点みたいな
フレーズがあります。

それが、夜の踊り子です。

そのメインフレーズは
2小節で1つのパターンを形成する
リズムなんですけど、
これ初見で聴くと
一見不規則 かつ複雑な感じがします。
というのも、
リズムの基準である表拍、
つまりバスドラのタイミングに対して
アクセントがほとんど来ないからです。

「動画」



でもフレーズも
よくよく紐解いていけば、
3-3-2のリズムと
拍またぎのシンコペーションが
絡んでいる事がわかります。

まずこのフレーズの
3-3-2の部分だけを抜き出したら
このようになります。

「動画」

そしてこのフレーズの
余白の部分に、
コード進行に即した音を追加すると、
こうなります。

「動画」

もうこの時点でだいぶ複雑なんですけど、
ここで最後に、
1小節目の3拍目で
D音をシンコペーションさせます。
そうする事で、あの独特の、
規則的な不規則を繰り返すフレーズになります。

「動画」



その上でなんですけど、草刈さんは、
こういった
4分音符、8分音符、そして16分音符が
瞬時に切り替わるようなフレーズでも
演奏が一切ブレないわけです。
それは、音価、つまり、
休符や音符の長さをコントロールする
リズムの体幹が凄いからだと思うんですけど
その正確性を担保しているものの一つに
「ウラ拍での着地」があると思います。



このウラ拍への着地に関しては
普段の 歩く時のリズムが
イメージしやすいと思うんですけど、
もし表拍基準のリズムで歩いていくと
イチニイサンシイというリズムになります。

この表拍基準の極端な例として
以前このチャンネルのケンケンさんの回で
ご紹介した井森美幸さんのダンスをご覧いただければと思うんですけど、
その特徴として、
1拍目と3拍目で
動きに停止が発生するような動作になると思います。

https://youtu.be/ItbOv9JoinU

その一方で、
ここでもしウラ拍基準で歩いてみると
イチ「と」ニイ「と」サン「と」シイ「と」と
そういったリズムになります。
こうする事で
1拍目と3拍目に動きが発生します。

その上でなんですけど、
草刈さんは、
この裏拍タイミングで着地する
そういったリズムの取り方をされる事があります。
それによって
特定の拍への重心過多を回避
そしてその結果として
リズムを常に推進させるような効果を
楽曲にもたらしているように思うわけです。




最後に「リズムの中和」なんですけど、
これがめちゃくちゃ重要で、
というのも、
1曲の中に2つのリズムがある場合に
とあるリスクが発生する
そんな可能性が出てくるからです。

個人的にそれは大きく2つあると思ってて
それが
☑︎音価、つまり、メインとなる音の長さの切り替わりでテンポキープがしづらい
☑︎楽曲に唐突感が出てしまうと、
メンバーの息が合わずに躓いてしまう。

この2つなんですけど、
草刈さんは、リズムが切り替わる際に
その架け橋となるような音を加える事で
楽曲に対して
スムーズな展開をもたらすんです



それは例えばアイデンティティなら、
Aメロが16ビート、
サビが8ビートという構成の中、

サビへと切り替わる大きなスイッチとして
Aメロの最後に
8分音符の4連打が出てきます。

ここで注目すべきは、
その更に1小節前なんです。
というのも、この1小節前の時点で
草刈さんは
後続ブロックのスイッチリズムとなる
その8分音符を先行して弾いているんです。

これは以前このチャンネルの
ハマオカモトさんの回でもお伝えしたんですけど、
この先行小節での事前予告は
カーナビでいう所の
「およそ300メートル先です」という
事前予告の効果をもたらし、
バンド演奏に対して
より確実な安全運転をもたらす効果があるわけです。

https://youtu.be/N5QNKx4XgN0

事実、Aメロの前半、つまり
その後も引き続き16ビートが続く所は
その先行小節で
3-3-2のリズムと拍またぎが出てきます。

「動画」



そんな草刈さんですが、
ご本人いわく
手は凄く小さいんだそうです。

この手が小さいというのは
通常ワンポジションでカバーできる
音程範囲が
狭くなる事を意味します。

にも関わらず、
あれだけ推進力と繊細さを兼ね備えて
軽やかに音程上下させているわけです。

これはつまり
「手が小さいからベースは弾けない」
ではなく、
「んな事関係なく、どうやったらベースが弾けるか」と
つまり、できない理由を探すのではなく
今ある環境で
どうやったらできるかを探した
そんな工夫の結晶だと思うわけです。



つまり草刈さんは、手が小さい上で
反射神経や筋力に過負荷をかけなくても
スムーズに演奏できる
フレーズを設計されているわけで、
そのスパイスとなっているのが
3-3-2のリズム
拍またぎ、そして
リズムの事前予告と中和だと思うわけです。


これ言うならば、
そんなリズムのカラクリを
変幻自在に操る草刈さんの掌の上で
僕たちリスナーは
踊らされているわけで、
そこにこそ、草刈さんの
アイデンティティがあるように思うわけです。


#サカナクション
#アイデンティティ
#夜の踊り子


関連動画

https://youtu.be/ItbOv9JoinU

https://youtu.be/N5QNKx4XgN0

https://youtu.be/6AozElbRnTM

https://youtu.be/1awua0YrSRs

https://youtu.be/LIlZCmETvsY