「実験カフェ」で"もう一人の自分"が仕事…難病・障害・介助…外に出られない人たちが"ロボット"遠隔操作で働く場 (23/02/25 09:00)

2023/02/25 に公開
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最新鋭のロボットを使って、外出が困難な人たちのために働く場所を作ろうと、札幌で今「実験カフェ」が開かれています。

 誰もが働ける社会への挑戦です。

 店長:「パラダイスティーとアイスココア。A-1番席にお願いします」

 ロボット:「今度は1番で大丈夫ですか? 」

 店長:「大丈夫です。 お願いします 」

 同僚ロボット:「さとこさん、いってらっしゃい! 」

 ロボット:「はい、いってきます! 」

 カフェの客にドリンクを運ぶロボット。


 冷たいプラスチック製のカラダですが、心が宿っています。

 パイロットと呼ばれる人たちがインターネットを通じてロボットを操り、会話もしているのです。


 パイロットはさまざまな事情を抱えています。

 ロボットのパイロット:「難病の一種である慢性疲労症候群を発症して、10mくらい歩くと疲れてしまう症状が出る病気で…」

 難病や障害。その壁を乗り越える手助けをするのが最先端ロボットです。

 誰もが活躍できる未来を!

 その実現に向けた実験が札幌市で行われています。

 札幌市中央区のホテルでレストランを利用して開かれている「実験カフェ
DAWN」。

 このカフェでオーダーされた飲み物を運ぶのは…。

 ロボット:「ご注文の飲み物アイスコーヒー3つ、パラダイスティーを1つお持ちしました。恐れ入りますが、私の手元からお取りいただけますか? 」

 客:「は~い」

 オリィ研究所 吉藤 オリィ 所長:「"OriHime(オリヒメ)-D"といって、わりと重い物、スイカくらいの物も運べる。ドリンクなどの配膳ができる」

 ロボットの名は「OriHime(オリヒメ)」。


 操縦している人は「パイロット」と呼ばれていますが、パイロットは店にいません。

 オリィ研究所 吉藤 オリィ 所長:「"カーリーさん"はいま東京都から操作をしています。カーリーさん、聞こえますか? 」

 OriHimeパイロット カーリーさん:「東京都の自宅から操作をしています。(Q:札幌は初めてですか?)初めてです、本当に。自分の"分身ロボット"を通じて、札幌に来られるとは思っていなかった」

 OriHimeを操作しているカーリーさんは、脊髄の難病で車イスの生活を送っています。

 外に仕事に出るのが難しいため、東京の自宅からインターネットで自分の分身のOriHimeを操り、パイロットの仕事をしています。


 「DAWN」は東京・日本橋に店舗があり、重病や障害で外出するのが困難な人たちが働いているんです。

 OriHimeパイロット ちふゆさん:「日本橋にはOriHimeパイロット70名の仲間がおりまして、新しい出会いと仲間がいるというのがすごくうれしくて、世界が広くなったような明るくなったような気がしています」

 Orihime(オリヒメ)は、2タイプ。

 店内を移動しドリンクなどを運ぶ「D型」と、主に接客を担当する「卓上型」です。 


 外出困難者の就労をサポートするOriHimeは、吉藤オリィさんが子ども時代の辛い経験をもとに開発しました。

 オリィ研究所 吉藤 オリィ 所長:「昔、病気で3年半くらい学校に通うことができなかったんです。その時に欲しかったのは健康な体なんですけれど、「もうひとつ体があればいい」とも思っていました。自分が入院をしていてももうひとつの体を使って、学校に通うことや友だちと遠足に行くことができたかもしれない」

 北海道にもOriHimeのパイロットが3人います。



 沖縄のパイロット さとこさん:「沖縄は海がきれいだから行きたいな。3月になると沖縄は海開きが始まりますので」

 札幌のパイロット けいさん:「OriHimeでダイビングをしたいね」

 沖縄のパイロット さとこさん:「本当ですね」

 札幌のパイロット けいさん:「(OriHimeが)防水にならないかな? 」

 仕事の合間に沖縄の同僚さとこさんとの会話に花を咲かせているのは、札幌市に住むパイロット「けいさん」こと、安達桂子さん。


 なぜOriHimeのパイロットになったのでしょうか?

 OriHimeパイロット けいさん:「実はわたしの娘が脳性まひで自由にしゃべることも、自分で自由に動くこともできないんです。喀痰吸引や、夜間は呼吸器も必要で、私は働くこともままなりませんでした」

 2023年、高校を卒業する娘の愛さんは脳性まひの後遺症で、自由に話すことやからだを動かすことができません。


 つきっきりの介助が必要で、外に働きに出ることはできなかったけいさん。

 1年半ほど前に出会ったのが、OriHimeパイロットという仕事でした。

 OriHimeパイロット けいさん:「ご注文の飲み物アイスコーヒー3つ、パラダイスティーを1つお持ちしました。恐れ入りますが、私の手元からお取りいただけますか? 」

 客:「は~い」

 OriHimeパイロット けいさん:「2度と働くことは絶対に無理だなと思っていたんです。それが、あ! 働けるんだと」

 働ける喜びがよみがえりました。

 しかし、心配なのは娘の愛さんの将来。

 愛さんが小学校に入学すると同時に、タブレット端末などを積極的に使わせてきたといいます。



 今では愛さんは、視線でパソコンに文字を入力することもできるようになりました。

 OriHimeパイロット けいさん:「この子を育てていくにあたり、あきらめたら成長はないかなと思った」

 そして、忘れられない日が訪れました。

 愛さん:「札幌市在住の安達 愛です。きょうは先輩のパイロットさんに見守られながらお仕事をします」

 インターネットを通じて接客を担当しているのは愛さん!


 学校の就労支援の実習でパイロットとしてデビューしたんです。

 愛さん:「私は視線入力装置やスイッチ操作で画面を選択して話しますので、少しお時間を頂きます」

 愛さんはパソコンとタブレット端末2台を1度に操作。

 頭の近くに設置されたスイッチと、視線で話したいことを選択できるソフトを使い、カフェにいるOriHimeが愛さんの代わりにおしゃべりをします。

 愛さん:「私の好きなことはおしゃべりです。自分の気持ちを伝えていろいろな人と交流したい。食べることも大好きで、特にザンギが好きです。白いご飯と一緒に食べると最高です」

 初めて接客する愛さんを先輩のパイロット2人が卓上型OriHimeで見守っています。

 愛さん:「なんでやねん! 」


 時にはこんな茶目っ気のあるツッコミも愛さんから飛び出します。

 「実験カフェ DAWN」は2月18日の開店以来、客足が途切れることはほとんどないといいます。

 女性客:「最後まで何かができる可能性があるというのは、人と関わることができるというのは素晴らしいことだなと思います」

 客(中学2年生):「もっと機械と話している感じなのかと思っていたけれど、実際に人がいるんだなというのが身に染みるというか感じました」

 誰もが活躍できる未来に向けた実験カフェは、「リッチモンドホテル札幌大通」で3月3日まで。

 「DAWN」は英語で「夜明け」を意味しています。

 けいさんと愛さん:「(けいさんが愛さんに)楽しめた? 楽しめなかった? 楽しめた? OK! 」