昔ながらの昭和の風情が漂う「下高井戸駅前市場(いちば)」。
その名の通り、駅のすぐ目の前にあり、建物の中の商店まで電車の音が響いてくる。昭和31年に開業、68年の歴史がある。
しかし訪ねてみると、シャッターの下りたお店ばかり。実はこの市場、建物の老朽化が激しく、再開発のため閉場され跡地は駅前広場になる予定だ。時代の流れには抗えなかった。16の店が地元沿線の住民の生活を支えてきたが、近年は10店舗ほどまで減り、取材班が訪れたときには3店舗になっていた。
その中のひとつ、「長谷川商店」は地元で人気の昔ながらの鮮魚店だ。わずか3坪の小さなお店ながらかつて年商5億円を売り上げ話題になったこともある。
その3代目が、長谷川泰右(たいすけ)さん。小学生の頃から店を手伝い仕事を学んできた。「国産の魚と、冷凍じゃない生の魚をなるべく使う」とそのこだわりを語る。
高級食材ではなく、安くて美味しい新鮮な食材を選び抜くのがモット─。庶民の台所として、お客さんにおいしいものを安く提供したいという強い思いがある。
一番の売りはマグロ。お買い得の本マグロを仕入れて激安価格で提供している。
「人件費がかからないように、なるべく自分で朝の準備を一人でやって、トレーも安くして値段に反映させる」と安さの理由を教えてくれた。そんな3代目を家族が支えている。
妻・晃子(あきこ)さんは豊洲で仕入れを担当。大学生の長男・雅人(まさと)さんは休みの日にお店を手伝っていた。
しかし市場なきあと、お店をどう続けていくか、悩みはつきない。
一方、長谷川商店の向かいでは豆腐店「いづみや」が営業を続けていた。最後まで残った3店舗のうちの一つだ。手作りで揚げたガンモなどが人気。10年にわたり店長を務めてきた藤田さんも寂しげだ。
そして、市場最後の日がやってくる。多くの人に愛された昭和生まれの下高井戸駅前市場。
お店の人、支えたお客さん。様々な人々の思いが交錯する中、駅前市場は最後の瞬間を迎えようとしていた。
(2024年4月24日放送「news every.」より)
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