第5回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム「酵母から見えてきたオートファジーの世界」大隅 良典 2018年7月22日

2018/12/19 に公開
視聴回数 34,966
0
0
第5回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム「生命の神秘とバランス」
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/361/

「酵母から見えてきたオートファジーの世界」
大隅 良典(東京工業大学科学技術創成研究院 栄誉教授)
2018年7月22日

生命活動は、常に合成と分解の平衡状態として維持され、構成要素は代謝回転しており、これは生命の本質的な性質である。しかし分解に関する研究は合成に比して長らく注目される領域とはならなかった。

リソソームの発見後、1960年代には細胞が自身のタンパク質をリソソームに運んで分解する過程として、電子顕微鏡観察によりオートファジーが見いだされたが、膜動態と伴うこの現象の分子レベルの理解は遅々として進まなかった。

私は、酵母の液胞の機能に興味を抱き、液胞膜のアミノ酸などの輸送系とその駆動力を与える V-ATPaseを発見した。その後1988年に酸性コンパートメントで、種々の分解酵素を内包する液胞の分解機能の解明を目指した研究を開始した。酵母を窒素源飢餓に晒すと、細胞質成分が液胞に大量に運ばれて分解されることを見いだし、電子顕微鏡観察によりこの過程が動物細胞のオートファジーと同様な膜動態からなることを明らかにした。酵母の利点を生かし遺伝学的解析を進め、オートファジー不能変異株を多数単離することに成功し、オートファゴソーム形成というユニークな膜動態に18個のATG遺伝子群が必須であることを明らかにした。これらの遺伝子の多くが高等動植物に至るまで保存されていることは、オートファジーが真核細胞の出現の初期に獲得された機能であることを示している。これら遺伝子の同定は従来のオートファジー研究の質を一変させることとなった。遺伝子操作により、高等動植物細胞や個体におけるオートファジーの生理的な役割の理解が一気に進み、今日も新しい知見が次々と報告されている。オートファジーの特性は単にタンパク質のみならず、細胞の超分子構造、オルガネラなどの大きな構造を分解できることにある。オートファジーは、単に飢餓時のアミノ酸などの供給による生存維持のみならず、細胞内浄化、オルガネラの質・量の制御、感染防御、発生、老化、さらには様々な病態に関わることが明らかになりつつある。こうして生命にとって分解が本質的な特性であるという理解が進みつつある。

細胞生物学としてオートファジーの膜現象は多くの研究者の興味を集め、その理解が進められつつある。しかしオートファジーの研究はまだ発展途上にあり、酵母においてすら、誘導条件、そのシグナル伝達、分解基質、液胞内分解過程と分解産物、その細胞質への輸送と代謝への影響など未解決の問題が山積している。30年の私自身の研究を振り返り、現在の到達点を紹介し、今後の展望について議論を進めたい。

2018年7月22日
有楽町朝日ホール(東京都千代田区)

その他の映像は、以下よりご覧下さい。
京都大学OCW
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/361/

京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム
http://kuip.hq.kyoto-u.ac.jp/