「伊勢エビ」食い荒らす“海のギャング”出現…三重の海に“異変” 漁師・海女も悲鳴(2022年11月25日)

2022/11/25 に公開
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旬を迎えた伊勢エビを食い荒らす“海のギャング”に、悲鳴を上げる漁師たち。さらに、伝統の海女漁にも、壊滅的な被害が及んでいました。水産資源の宝庫と呼ばれる三重県の海で一体、何が起きているのでしょうか?次々起こっている“異変”を追跡しました。

■網ごと食いちぎる…“犯人”ウツボ

太平洋に面した、三重県志摩市。

伊勢エビ漁師の畑啓一さん(58)はここ数年、伊勢エビ漁が大きな被害を受けているといいます。

畑さん:「ここですね」「(Q.大きな穴が空いていますね?)こんなのは、(直すのに)3時間くらいかかる」

無残に破れた商売道具の網。伊勢エビ漁師たちは、連日その修復に追われていました。被害は、それだけではありません。

畑さん:「(伊勢)エビの稚魚を食べてしまったり」

伊勢エビが、網ごと食いちぎられてしまうというのです。その“犯人”は、漁を終えた網に掛かっていました。

魚を丸呑みする、見るからに狂暴そうな魚は、“海のギャング”ウツボです。

ウナギのような細長いからだが特徴の肉食魚。鋭い歯と大きな口で、魚やイセエビを捕食します。

その獰猛さを捉えた映像では、伊勢エビに3匹のウツボが群がり、捕食しています。

■駆除作戦も…漁師「海がおかしい」

ウツボの被害に悩まされている漁師たち。志摩市の伊勢エビの漁獲量は去年、およそ3万キロも減少しました。

危機感を覚えた伊勢エビ漁師たちは、ある行動を起こしました。

伊勢エビ漁師:「このごろ、ウツボが増えてきたので、(ウツボの)駆除」

およそ2年前から、漁の合間にウツボの駆除を行っているのです

畑さん:「ささやかな抵抗やわ。何もやらないでいるよりは」

捕獲の方法は、餌(えさ)となるイワシなどを仕掛けた筒状の罠を、海の中に沈めます

わずか15分後、餌のにおいにつられて、ウツボがやってきました。

その後も、次々と罠にかかるウツボ。やはり、相当な数が生息しているようです。

今回仕掛けた罠の数は、およそ100個。その中には、1つの罠に3匹もウツボが入ったものもありました。カメラにも、攻撃的な姿勢を見せます。

この日だけで、およそ200匹のウツボを捕獲しました。

畑さん:「不安は随分ありますよね。海がおかしい。海がだんだんおかしくなってきているのをすごく実感する」

■水温5℃上昇…専門家「海が砂漠化」

伊勢エビの減少はウツボだけが要因ではないと、専門家はいいます。

三重大学 水産実験所・松田浩一教授:「5年前に、黒潮という海流が流れているが、それが大蛇行が始まってしまって。それの影響で、志摩半島沿岸では、水温が非常に高くなっている」

「黒潮」は、海水の温度が高く、栄養素が少ない海流。およそ5年前から蛇行を続けることで、志摩半島の沿岸に黒潮が接近したため、冬場の海水温は、4度から5度も上昇しているといいます。

その影響で、以前は海藻が生い茂る豊かな漁場が、今ではほとんど海藻が生えていない、磯焼けという状態になっています。

海の生態系が変化し、大きく数を減らしている生き物がいる一方で、ウツボは…。

松田教授:「ウツボは、本来は温かい海を好む生き物なので。海の中では増えている(可能性がある)、少なくとも減っていることはない」

海藻がない“砂漠化状態”の海でも生きられるウツボ。捕獲する漁師の減少などもあり、相対的にその数を増やし、被害が拡大しているとみられています。

■「何も取れない」海女漁もピンチ

水産資源の宝庫と言われた三重の海の異変。伝統の海女さん漁にも、大きな影響を及ぼしていました。

海女歴13年、小海途静江さん(68)です。

静江さん:「(昔は)何十人もおった。(この地区では)今は4人だけ」

周辺の海では、海藻を餌とするアワビやサザエがほとんど取れなくなりました。

特にアワビは、黒潮の影響を受けた2年前から減少。今はほとんど壊滅状態だといいます。

今は禁漁の時期ですが、特別に許可を得て潜ってもらいました。

静江さん:「(前は)海藻生えて、良かったのにね。(今は)岩ばっかし。寂しいけど、仕方ない。天候のことやから」

静江さんの収入は10分の1に激減。現在は、真珠養殖のアルバイトをして生計を立てているといいます。

この日、30分以上潜って取れたのは、ウニが2つと売り物にならない小さなサザエが5つでした。

静江さん:「こんなんやったら、これで仕事(生活)はしていけない。食べていけないから、無理やろうね」

■緑豊かな海復活へ…水中の奮闘

黒潮の蛇行が終わり、海水温が下がらない限り、漁場は元には戻りません。

そんななか、危機的状況を少しでも改善するため、行動を起こしている人がいます。

地元でダイビング店を経営しているプロダイバーの清水憲夫さん(69)です。

清水さん:「液体を湿らせてある、カキ殻です。液体の成分がジワジワ海水ににじみ出て、周りに良い効果をもたらす」

清水さんは1年前から、海藻の胞子を岩などに着床しやすくする液体を染み込ませた、カキの殻を海底に置く活動をしています。

液体が周りの海藻の成長を促す効果があると考えられていて、緑豊かな海を復活させようとしているのです。

その効果は、驚くべきものでした。海藻がほとんどなかった場所が、わずか半年後には、岩場が見えないほどの海藻で埋め尽くされていました。

■海藻のじゅうたんが…再び消滅

ところが、今回、清水さんの活動に同行し、現在の海の様子を撮影してもらうと、そこには、予想もしなかった光景が広がっていました。

清水さんの手により、海藻が復活した場所へ行ってみると、なんと、ほとんどの海藻が再び消滅していたのです。

5カ月前の状況と比較すると、まるで別世界。これは、水温が上昇したことで、元々、この海域にはあまりいなかったブダイなどの魚による食害なのだといいます。

清水さん:「(海を)元通りに戻すことは、まず不可能だと思います。こういう実験によって、部分的に良い成果を得られるのであれば、少しでも磯焼けで壊滅的な状況になるのを食い止めていければ」

(「スーパーJチャンネル」2022年11月23日放送分より)
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