“核の原点”の物語は今何を伝えるのか…映画『オッペンハイマー』ノーラン監督に聞く【報道ステーション】(2024年3月15日)

2024/03/16 に公開
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日本映画の受賞で盛り上がったアメリカのアカデミー賞ですが、作品賞や監督賞など最多7部門を受賞したのが『オッペンハイマー』です。

広島・長崎に落とされた原子爆弾の開発計画を主導した男、オッペンハイマーを主人公に、今も続く“核世界”の原点に迫る作品です。

この映画は私たちに何を伝えようとしているのか。クリストファー・ノーラン監督に話を聞きました。

■監督に聞く“核の原点”が伝えるもの

映画の主人公は、理論物理学者のロバート・オッペンハイマー。人類初の原子爆弾の開発を目指した『マンハッタン計画』を主導し、3年で完成へと導きます。

今につながる原爆開発の物語。クリストファー・ノーラン監督に話を聞きました。

(Q.なぜオッペンハイマーの人生を描く映画を作ったのでしょうか)

クリストファー・ノーラン監督
「私は80年代にイギリスで育ちました。『核兵器の拡散』の時代。若い世代ではカルチャーの一部で、初めて名前を聞いたのはスティングの『ラシアンズ』の歌詞でした。『オッペンハイマーの殺人玩具』核兵器への形容があります。やがて彼と原爆の関係、人物像も知ることになります」

映画は、今に続く“核の世界”の始まりを描いています。科学者であるオッペンハイマーは、核兵器の開発という役割のもと、戦争に加担していきます。そして、自らの手で世界を変える戦争兵器を生み出すことになります。1945年7月16日午前5時29分。原爆誕生の瞬間です。

(Q.核兵器に対する意識の変化・移り変わりを感じますか)

クリストファー・ノーラン監督
「作品に着手した頃、10代だった息子は『僕らの世代は核兵器に関心がない』『脅威としての認識はない』驚きではありましたが、映画製作が終わる間に世界は変わり、地政学的状況が悪化していました」

映画の撮影中に起きたのは、ロシアによるウクライナへの全面侵攻でした。

クリストファー・ノーラン監督
「『核の拡散』『大量虐殺への脅威』人々は再び向き合うことになります。オッペンハイマーの果たした役割はとても興味深いテーマです。科学と歴史の物語であり“暗い瞬間”を描いていますが、観客に正しく響いたようです。若い人の関心を引けたのなら良いことだと思います」

(Q.だからこそ、オッペンハイマーの困難や苦悩が重要になってくるということですね)

クリストファー・ノーラン監督
「彼が関わっていた計画の困難さを、映画館で観ている人に疑似体験してほしかったのです。マンハッタン計画が進むと、原爆が世界を破壊しかねない危険性を、科学者でも完全に排除できないと彼は気づかされます。彼の複雑なジレンマに観客を引き込めると思ったのです。世界史にとって重要なジレンマです」

ノーラン監督の演出アプローチは“人物の表情”を捉えることにありました。役者たちは、言葉にできない苦しみを表情で表すことが求められました。

被害の大きさを知ったオッペンハイマーは苦悩を抱え、その後の核開発のプロジェクトから身を引くことになります。

原爆を生み出したアメリカ。映画を観た人たちは、どんな受け止めをしたのでしょうか。

映画を観た20代
「“原爆投下は偉大で愛国的”そんな話ではなく、明確に批判的ですね。『原爆開発』は力の誇示に過ぎず、不要だと思っています」

映画を観た80代
「原爆が戦争を終わらせた?終わらせていません。原爆が存在する以上、人は使おうとします」

大戦が終結して始まったのは《核の開発競争》。オッペンハイマーから始まった世界が今に続いています。

ロバート・オッペンハイマー博士(1945年)
「原爆使用のパターンは広島で決まった。しかし、原爆は侵略者のための兵器だ」

クリストファー・ノーラン監督
「“世界の転換”を導いた問題の壮大さを観客に訴えるには、人間的な要素、実在の人物の視点で感情移入させる必要があります。とても複雑な人間が、人類史の“暗黒の試み”に関わるのです。人物像と歴史上の立ち位置を観客につかんでもらいたい。在り方や行動について、それぞれに思いをはせてほしい」

■被爆者がみた『オッペンハイマー』

この映画を被爆者の方はどう見たのでしょうか。2歳の時に長崎で被爆し、現在は長崎県被爆者手帳友の会の会長を務める、朝長万左男さん(80)に、去年アメリカで映画を見た時の感想を聞きました。

朝長万左男さん
「僕ら長崎の被爆者としては、オッペンハイマーを恨む気持ちもあるわけだけど、僕はこの映画をポジティブに受け止めた。被爆者の実相が描かれていないという声もあるが、オッペンハイマーの葛藤を疑似体験することで、被爆者の苦悩や核の非人道性を感じられた」

オッペンハイマーは核開発の後、アメリカ政府が水爆を開発することに反対するのですが、それはかないませんでした。それについて、朝長さんはこう話します。

朝長万左男さん
「やはり政治家に『核兵器を廃絶する』という決定をさせるには、1人の人間ではなく、多くの国民が立ちはだからないとできないのではないかと思う。世界中の市民がこの映画を見ることが、核廃絶を進めるためにも非常に重要」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp