古賀茂明×宮台真司×角谷浩一:末期症状を呈する自民党政治を日本の終わりにしないために【ダイジェスト】

2023/11/18 に公開
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マル激トーク・オン・ディマンド 第1180回(2023年11月18日)
ゲスト:古賀茂明氏(元経産官僚、政治経済アナリスト)
司会:角谷浩一 宮台真司

 岸田政権の相次ぐ不祥事は単なる一政権の問題なのか。それとも自民党政治そのものが限界を迎えているのか。

 岸田政権の迷走が止まらない。それが顕著に現れたのが、政務三役の辞任ドミノだ。税金滞納で4度の差し押さえを受けていた神田憲次財務副大臣を筆頭に、女性問題が露呈した山田太郎文部科学政務官、違法な選挙運動を主導したとされる柿沢未途法務副大臣など政務三役が、相次いで辞任に追い込まれている。いずれも不祥事が表面化した挙げ句の、事実上の更迭だった。さらに、今週になって三宅伸吾防衛政務官にも性加害の疑惑が取り沙汰されている。本人は否定しているが、「人事の岸田」を自任してきた岸田政権でここまで不祥事が続く異常事態は単なる政権の体質を越えて、何かとてつもない機能崩壊が統治機構内部で起きていると思わずにはいられない。

 更に問題なのは、単に政権中枢の不祥事が続いているだけではなく、岸田政権が推し進める政策がどれも的外れなことだ。停滞の30年を経て、今や日本が先進国の座から転落しかかっているというのに、岸田政権が打ち出す諸政策ではその傾向に歯止めがかからないばかりか、むしろ日本の凋落に拍車がかかることが目に見えている。人事もダメ、政策もダメでは政権の支持率が上がろうはずもない。

 それにしてもなぜ岸田政権は、日本が非常事態に瀕しているといっても過言ではないこの時期に、何ら有効な手立てを打つことができないのだろうか。これは岸田政権だけの問題なのか、自民党政治がダメなのか、はたまた現在の日本の統治機構自体が立ち行かなくなっているということなのか。

 過去30年間の日本の凋落は、明らかに政府の失政によって引き起こされたものだっだ。経済成長ができず、国民所得も一向に上がらない中で、日本はもっぱら貧乏になり、国民生活は圧迫され続けてきた。元経産官僚の古賀茂明氏は、突然賃金を上げるなどと言い出している岸田政権について、それがどれだけの痛みを伴うことかを分かっていないと指摘する。欧米諸国も多くが1960年代から20~30年間、停滞を経験してきた。当時はイギリス病、オランダ病などと言われたが、労働条件を改善するとそれに生産性が追いつかないために経済が停滞するというジレンマの中で、多くの国が何とか賃金を上げる方法を模索してきた。しかし、1990年代からの30年間、日本が同じような努力をしなければならなかったはずの時期に、経団連と自民党はいかに人を安く働かせるかで知恵を絞り、労働法制を緩和することによって派遣労働や外国人技能実習制度を拡大してきた。それは大企業の利益を底上げし、税収増にも寄与してきたかもしれないが、社会は傷み人心は荒廃し続けてきた。

 古賀氏が1980年に通産省に入省した頃、日本はジャパン・アズ・ナンバーワンと言われていた。しかし、その時の日本には、そこから先の日本をどのような国にしていきたいかについてのビジョンがなかった。そのため日本では、民主主義や資本主義を支える社会資本である労働運動や消費者運動、環境NGOやボランティアなど、他の先進国では普通に備わっているはずの社会的共通資本がことごとく育たず、政府と企業だけが力を持ち、肥え太っていった。

 普通であれば豊かになった国は環境問題や人権、差別など社会の諸問題に取り組むようになるものだが、社会的共通資本を育て損ねた日本だけはそうならなかった。そこに日本が先進国になりきれなかった根本的な原因があるのではないかと古賀氏は語る。環境問題や消費者問題をおざなりにした結果、市民社会が真に助けを必要とする事態が生じたとき、日本には市民社会の側に立って戦う勢力が育たず、結果的に行政と一握りの大企業だけが我が世の春を享受し続ける歪な国になってしまった。

 この状況を打破するためにはまず、国民が日本の衰退の現実を理解した上で、有効な手立てを講じる能力と気概を持った勢力に力を与えることが必要だ。日本ではマスメディアが既得権益の守護神の役割を果たしているため、現実を知ることは決して容易ではないが、まずはその壁を打ち破らなければ、仮に実効性のある政策を訴える政党や政治家が出てきても、そこに国民の支持が集まるようにはならない。しかしそれでは、有効な手立てを打つ気のない、あるいはその能力のない勢力が日本の操縦桿を握りつつける過去30年の失政が続くことになる。

 今、日本では政治も行政も経済も司法も、そしてメディアも、国の統治を支えるあらゆる機能が機能不全に陥り、崩壊状態にあるのはなぜなのか。われわれはどこで道を誤ったのか。現在の閉塞状態から脱するためには何から手をつければいいのかなどについて、元経産官僚の古賀茂明氏と、政治ジャーナリストの角谷浩一、社会学者の宮台真司が議論した。

【プロフィール】
古賀 茂明(こが しげあき)
元経産官僚、政治経済アナリスト
1955年長崎県生まれ。80年東京大学法学部卒業。同年通産省(現経産省)入省。経済産業政策課長、中小企業庁経営支援部長、国家公務員制度改革推進本部審議官などを経て2011年退官。同年より現職。著書に『分断と凋落の日本』、『日本中枢の崩壊』など。

宮台 真司 (みやだい しんじ)
東京都立大学教授/社会学者
1959年宮城県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)著書に『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-』、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』、共著に『民主主義が一度もなかった国・日本』など。

角谷 浩一(かくたに こういち)
政治ジャーナリスト
1961年神奈川県生まれ。85年日本大学法学部新聞学科卒業。東京タイムズ記者、「週刊ポスト」、「SAPIO」編集部、テレビ朝日報道局などを経て1995年より現職。

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