夢の化合物「PCBがなかったら人生は狂っていなかった」油症被害者救済 企業責任の行方は

2023/03/28 に公開
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発覚から55年がたつカネミ油症事件。
1968年(昭和43年)カネミ倉庫(本社 福岡県北九州市)が製造する食用油に『PCB・ダイオキシン類が製造過程で混入』した事が発覚。
西日本一帯で多くの人に深刻な健康被害を引き起こしました。ダイオキシン類の半減期は人の寿命を越え、被害者の体内には未だ高濃度に残存している事がわかっています。『胎児にはほとんど移行していない』とされていますが、その一部は移行し、“死産や流産”を引き起こしたほか、“色素沈着の見られる赤ちゃん”が生まれました。“黒い赤ちゃん”の誕生は世間に衝撃を与え、仕事や結婚への影響を恐れ、多くの人が被害を隠したまま 今に至っています。カネミ油症の原因となったポリ塩化ビフェニル(PCB) は 当時『夢の化合物』と呼ばれていました。
事件発覚から半世紀以上たった今も、莫大な費用をつぎ込んだ処理が続いています。こうした中、“PCBの製造企業”にも 油症患者救済の枠組みに入るよう求める声が高まっています。

「“三者”協議から “四者”協議に」求める声

会議担当者:「冒頭撮影、どうぞお入りください」2023年1月28日、福岡市で行われた『カネミ油症の三者協議』です。
加害企業のカネミ倉庫・被害者・国が顔を揃え、年2回、救済について話し合っています。この協議に事件の発生に深く関わった “もうひとつの企業” を加え『四者協議』とするよう求める声が上がっています。1968年に発覚したカネミ油症事件。
北九州市の中小企業 カネミ倉庫が作った油を食べた人に ひどい吹き出物や吐き気、内臓疾患など全身に及ぶ症状が現れました。油に混入していたのは『カネクロール』という名前で販売されていた人工の化学物質『PCB』です。熱にも、酸にも強く、電気を通さないPCBは工業用のオイルに適していて 繊維、アスファルト、段ボール、ゴム、冷暖房などあらゆるものに『夢の化合物』と呼ばれて使われていました。カネミ倉庫も、米ぬか油の製造過程で、油を温める『熱媒体』としてPCBを使っていた “一利用者”でした。事件を受けて初めて“毒性”が広く知られるようになり、事件発覚から5年後の1973年『化学物質審査規制法』でPCBは製造・輸入・使用禁止となりました。車を運転する 元高砂市議会議員 井奥 まさきさん:
「それじゃあまず丘から行きましょうか。“PCBの丘” 」
(記者)PCBの丘って言うんですね?凄い名前。井奥 まさきさん:
「僕らはそんな言ってますけどね。実際、皆さん来られたらびっくりするけど、ほんまに丘なんですよ」

海に流れたPCBを埋めた“丘”

兵庫県高砂市。国内のPCBの96%はここで作られていました。大手化学メーカー旧 鐘淵化学工業。現 カネカ高砂工業所。
油症事件が発覚した後、ここ高砂では PCBの処理を巡って “別の問題” が勃発していました。元高砂市議会議員 井奥 まさきさん:
「どこが一番わかりやすいのかな…ずーっとこの辺一帯が全部PCBを埋め立てた丘なんですよ。
ずーっとこちらからこちらまで。あの辺見て頂いたら分かるのかな?」“PCBの丘”と呼ばれるこの盛立地は、カネカなどが海に流していたPCBを閉じ込めたものです。

処理しきれないものを扱ってはいけなかった

広さ5ヘクタール。
海底に溜まった大量のPCB汚染土を処理できる施設はどこにもなく、根こそぎすくい上げ、アスファルトで覆いPCBの丘となりました。元高砂市議の井奥まさきさんは「当時は大議論になったものの、今はこの丘がPCBだと知らない住民も多く、このまま残り続けるだろう」と言います。元高砂市議会議員 井奥 まさきさん:
「どこかの段階では何らかの処理をして欲しいという願いはありますけど、今のところはこの状態で監視している状態です。
“夢の技術”とか飛びついたらいけないという…何度も苦しめられてきた教訓の典型的な話ですけどね。
こんなに処理しきれないものを人間が扱ってはいけなかったかもしれない…」

全国5カ所で今も処理は続いている

今では触れることさえ危険とされるPCBを、天ぷらやドーナツにして食べてしまった被害者たち。
事件発覚後、約30年、民間主導で、各地で処理施設の立地が試みられましたが、地元の理解が得られず 39カ所、全てで設置できませんでした。
この間、1万台を超えるPCB機器の行方が分からなくなりました。国が全額出資した施設「JESCO」を 全国5カ所に整備し、処理を始めたのは2004年のことです。北九州PCB処理事業所 担当者:「これで2週間分(の処理量)ですよ」これまでPCB処理にかかった費用は9,115億7,800万円。
うちおよそ2千億円は国が負担し、期限の延長を繰り返しながら、今も処理が続いています。施設案内ビデオ 音声:「…PCB汚染物をドラム缶ごと 溶融分解処理します」

油症と結びつけるのが嫌で子どものことを言えなかった

『夢の化合物』の正体──
PCBは熱でさらに強毒のダイオキシン類に変わり、胎児にも移行する物質でした。カネミ油症認定患者 渡部 道子さん:
「なんかね息子の小さい時のことを言うのが辛くって…。
みんなの話を聞けば聞く程辛いんですよ。あー同じなんだと思って。
みんなやっぱり抱えてるんだなと思って」姫路市に住む渡部 道子さんは小学6年生の時、長崎県五島市で汚染油を食べて以来、深刻な体調不良が続いています。食べてから17年後に心停止状態の男児を出産。
“病気を繰り返す息子” と “油症”を結びつけるのが嫌で、同じ被害者にも子どもがいることを隠してきました。カネミ油症認定患者 渡部 道子さん:
「言えんかった。子どもの事を…。
私がこんなだから、虚弱体質で弱かったから、子供がこういう状態で生まれたと信じてたんで」

「ない袖は振れない」加害企業 「裁判で和解した」製造企業

2023年1月の三者協議の後──(記者)次世代の健康被害が騒がれてますけど、どう受け止めていますか?
カネミ倉庫 加藤 大明社長:
「それは私共が判断することではなくて、油症班(※)が判断することで、コメントする立場ではありません」 ※全国油症治療研究班
(記者)原因企業としてどのようにお考えですか?カネミ倉庫 加藤 大明社長:
「原因企業はカネカさんじゃないですか?うちですか?」
(記者)原因企業だからお見えになっているのではないですか?
カネミ倉庫 加藤 大明社長:
「私共は責任取るために来ているんですが、大元の “原因” を作ったのは “PCB”でしょ?」カネミ倉庫は、認定患者に対して、毎年、医療費として総額 約1億円、和解金500万円を分割して1人あたり 5万円ずつ支払っています。
※認定時の一時金は23万円しかし『ない袖は振れない』と、これ以上の負担に対応できない可能性を示していて、被害者達は認定を待つ次世代のためにも『カネカ』に救済の枠組みに入るよう求めています。

PCBがなかったら人生は狂っていなかった

被害者らは2022年11月、カネカ高砂工業所(兵庫県高砂市)を訪ね、事業所入口で要望を伝えました。カネミ油症被害者 三苫 哲也さん:
「カネミ油症被害者の多くは、この世にPCBがなかったら、カネカがPCBを製造していなかったら、私の人生は狂っていなかったと訴えているのをご存知でしょうか?」『カネカ』は当時の裁判で 6回連続 敗訴したものの、7回目で一転して勝訴。
最終的に総額 約105億円を支払う代わりに “事件について責任がない”ことを認めさせ 和解しました。
次世代へ続く被害も含め「尽くすべきは 尽くしてきた」としています。

終わりにしたいが子や孫のことを考えると終わりにできない

カネミ油症認定患者 渡辺 道子さん:
「(PCBは)薬のカプセル(錠剤の艶だし)とかにも使われてたって聞くし、本当恐ろしいものを作ってたんだなと思って。
もう本来なら終わりにしたいんですよね、私達も。
でも子供たちとか孫のことがあるから終わりにできないんですよね」化学物質に無知だった時代、経済発展の代償ともいえるカネミ油症事件。6月には次世代調査の初の解析結果が公表されます。
かつての “夢の物質”が及ぼす残酷な被害の一部が、また明らかになろうとしています。∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽【カネミ油症事件】概要1968年(昭和43年)カネミ倉庫(本社 福岡県北九州市)が製造する食用油に『PCB・ダイオキシン類が製造過程で混入』した事が発覚。
西日本一帯で多くの人に深刻な健康被害を引き起こした。ダイオキシン類の半減期は人の寿命を越え、被害者の体内には未だ高濃度に残存している事がわかっている(全国油症治療研究班)。
『胎児には胎盤等でブロックされほとんど移行していない』とされているが、その一部は移行し、“死産や流産”を引き起こしたほか、“色素沈着の見られる赤ちゃん”が生まれた。“黒い赤ちゃん”の誕生は世間に衝撃を与え、仕事や結婚への影響を恐れ、多くの人が被害を隠したまま今に至る。しかし発覚から半世紀が過ぎた今、次世代からも健康被害を訴える声が上がっており、国は2021年(令和3年)に次世代健康影響調査に着手した。“受精卵時からのダイオキシン曝露”を調べた研究は世界でもなく、今回が初めての調査となる∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽カネミ油症事件から55年 次世代健康調査 公表を前に第1回:「産んで欲しくなかった」次世代が抱く恐怖と差別 “黒い赤ちゃん”として生まれた子どもたち 
第2回:「恨む お母さんが油を食べていなければ」先生からも石を投げられ…差別恐れ 口つぐむ被害者∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

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